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アカウント削除しようとしたら、新しいアカウントを作成させられる話

ここのところ、

アカウントの清掃活動に励んでいる。というのも、銀行や保険などのたいせつなアカウントと、いつつくったのかわからないECサイトのアカウントが同じパスワードマネージャーの中でとっちらかって、もはや収集がつかなくなっているのだ。見て見ぬフリができぬ量になってきてしもうたのだ。

そっ閉じしようとする指をおさえつけながら、パスワードマネージャーの中のアカウントをひとつひとつ、これなんだったけな、もういらねーかな、などとログインしてはアカウント削除ボタンをポチっていく。地味かつ何の生産性もない作業である。もう簡単にアカウントなんてつくらないぞ、と固く心に誓う。

驚いたのは、アカウント削除の機能が搭載されていないサイトが少なくないことだ。釣った魚は逃さないということか。並々ならぬ執着を感じる。ヘルプページを掘ってようやく削除方法を見つけたと思ったら「サポートに連絡してね」などとのたもうておる。ないゆえこの期に及んで作文せねばならんのだ。余はもう、そなたには興味がないのだ。関わりたくないのである。別れたいと申しておるのだ。「そんなのいや!別れない!会って話したいの!いちど会って、ちゃんと顔を見て話したいの!悪いところがあったらなおすから!別れたくないの!」

面倒くさすぎる。

しかもサポートの連絡先がこれまた埋もれていて見つけられない。アカウントを絶対削除させない意志が強すぎて、もはや恐怖ですらある。体感3ptぐらいの極小の問い合わせメールアドレスを見つけて、メールを書く。作文はチャッピーに丸投げした。

送信ボタンを押した。1秒後ぐらいに返信がきた。 全部英語だ。

「メールでの問い合わせは2026年5月をもって終了しますた。問い合わせはこちらのリンクからヨロピコ」

なんだよ結局リンクなのかよ、と思いながらリンクをポチる。アカウント作成画面に誘導された。問い合わせを送信するためには、問い合わせシステムへのアカウント登録が必要よ、って書いてある。

あほなのか。

もぅ疲れたよ、パトラッシュ。

チャーリーさんの期待値

毎週木曜日の夜、

チャーリーさんとの定例ミーティングがある。イマジナリーフレンドではない。

定例ミーティングの記念すべき第1回目に、「今後は毎回最近どう?と聞くから、その答えを用意しておいて。」と言われた。

ガッテン承知、その次の回で最近どう?の質問にプライベートな情報も交えて答えたら、「それが聞きたかったんじゃない」と言われた。しょんぼりである。

そうか、ならば仕事の話だな、というわけで、システム構成の資料や成果やらを見せつつ、タスクの中身とその進捗について説明してみた。 どれも響かなかった。なんなら、自信のあった資料も、その資料はなぜ作ったの?まで言われた。いや、自分でアウトプット作るほうが理解が深まるからだよ?

何のゲームだ、これは。

明日で、定例ミーティングは第25回目を迎える。正直今も何を話せばいいのかわからない。ただただ、気が重い。結局は、仕事の話になるわけだが、まだ取り掛かり中のものばかりで、詳しく話そうとすればするほど、ツッコみどころも増していく。かといって、この定例ミーティングがなければ進捗を作ろうという気にもならないので、これはこれで必要なのだ、と言い聞かせたりしている。

これほどまでに相手の期待値が読めないのは、我が人生ではじめてである。いや誰かの期待値なんて、これまでだってわかってはいなかったのかもしれない。ただ、分かったような気がしていただけなのだ。

チャーリーさんとの定例ミーティングは、自分がとても無力に感じて、逃げ出したくなる。

オカンと断捨離

実家が荒れている。

今に始まったことではない。

オカンは団塊世代のレディースである。小さい頃はGHQ的なアメリカンなソルジャーにおねだりしてチューイングガムやキャンディをもらっていたらしい。オカンは、キャンディのことを"キャンデー"としか発音できない。ディズニーランドは"デズニーランド"である。ちっさい"ぃ"のない世界線だったに違いない。

オカンは物が捨てられない。

家は、物で溢れかえっている。余は物心ついたときから上京するまで、足の踏み場のない世界で生活していた。友達は家に呼べなかったし、家に呼ぶような仲の友達もいなかった。いきなり悲しい話になりそうだ。家庭訪問前の日はよなべして、あらゆるものを風呂場やトイレに突っ込むというイベントが開催された。

オカンによると、ひとつひとつの家具に、洋服に、鉛筆1本に、どうみてもゴミじゃね?と思うガラクタひとつひとつにまで歴史があり、手にとるだけでその時にタイムスリップできるのだそうだ。もはや家全体がオカンの思い出博物館なのだそうだ。実家は、物にあたらずに移動することが難しいので、オカンはトイレにいくだけでタイムスリップしまくりだと思う。

60歳を過ぎて、

さすがにオカン自身もこのまま人生の終焉を迎えるのはヤバいと思ったのか、断捨離すると言い出した。ただ、断捨離すると決心してから実際の行動に移すまで、5年かかった。断捨離できたと嬉々として報告してきたから、何を断捨離したのか尋ねたら、溜まった新聞だった。

オカンは、断捨離を決意して今年で16年目を迎える。オカンなりにがんばってはいる。断捨離が敢行される規模はごくごく小さい。オカンにとって物を捨てることは腕や足をもぎ取られるぐらい苦しいらしいので、だったらもういっそ今のままでいいんじゃないか、と思う。

オカンは甘え下手で、たぶん愛されることに慣れてない。オカンの異常なまでの物への執着は、満たされない気持ちの投影なのではないかと、最近になって思う。

オカンは言う。ときがきたら、すべて処分して洋服一着だけを残して旅立つと。

そんな日が来ないことを願ってやまない。

西川少年は勝ち組

小学生の頃、

同じクラスに、西川くんという同級生がいた。ドラえもんでいうところの出来杉くんキャラである。いつも鼻をグシュグシュいわせていた。おそらく蓄膿症だ。西川くんは、親がふたりとも教師で、特に西川くんのオカンはスパルタンで有名だった。休み時間も予習復讐に明け暮れる、ガリ勉キッズの毎日は、いちミクロンも楽しそうには見えなかった。余は本能的に、西川くんは違う世界線の生き物なのだな、と思っていた。

余はというと、書道の分野では一目おかれる、いわば、小学生書道界隈のモンドセレクションだった。すべては書道教室の先生の指導の賜物だっただけなのだが、モンドセレクションだったがゆえに、西川くんのスパルタンオカンにロックオンされてしまった。

西川くんのスパルタンオカンは、余の通う書道教室に自分のムスッコを潜り込ませるようになった。当時余は書道以外の習い事もしていたのだが、あらゆる習い事の教室に、西川くん親子は現れた。

お正月。

書き初めという、余にとっての年イチ大切な舞台で、西川くんは毎年、宿敵として現れた。たったひとりのモンドセレクションの座をかけて、仁義なき戦いが幕を開けるのだ。

小学生最後の大会ではじめて、余は西川少年に負けた。涙がとまらなかった。悔しくて泣いたのは、あの時が初めてだったと思う。

のちにオカンは、保護者面談で担任から「実力では西川くんの負けでした。でも、これまでずっと負け続けてきた西川くんに小学6年生の最後ぐらいは華を持たせてあげたかったんです」とフォローされたらしい。

意味が分からない。ふざけるのもいいかげんにしてほしい。こっちは全力で戦っているというのに、なんだその理由。小学生最後の大会っていうのは西川少年にとってだけでなく、余はとっても同じだったんですよ?

大人の事情もちこんでんじゃねーよ。

余は西川くんを心底嫌悪した。親に決められたレールに乗っかってただクソ真面目に生き、実力に見合わない結果を手にする。なんだそのクソおもんない人生は!結果、勝ち組じゃねーかっ!裏山けしからん!

恋に恋するメルヘンちゃん

メルヘンちゃんと

菩薩さんには10年ほど前に仕事で出会った。当時、彼女たちは同じ会社で働いていた。その会社の社長は自称経営コンサルタントだった。彼は、自分の顧客が経営上必要とする最先端のシステム開発、つまるところ、ただのホームページ作成などを請け負っていた。余はその社長と知り合い、ふたりと出会い、そうして友人になった。今でも友人関係は続いている。と、信じたい。そんな彼女たちと、ひさしぶりに会うことになった。オンラインで。

メルヘンちゃんは、ジャニオタであり、ディズニーオタである。出会った当時から今まで、そのスタイルを貫き通している。今回も、ディズニーでしか手に入らないであろうTシャツを来てオンラインに現れた。かわいらしい外見にそぐわず、彼氏いない歴の記録を今年も更新したという。さらに今年はコロナの影響で推しのジャニーズツアーが中止となり、遠征もできず日本経済をまわせなくなった、と嘆いている。

菩薩さんは、包容力の塊だ。この10年で結婚し、母となった。菩薩さんと話すだけで癒される。ココロが浄化される。オンラインの途中、乱入してきたキッズを優しい表情でたしなめる、家の中でしかみられないような神々しい姿を垣間見た。もはや如来降臨である。

ひととおりお互いの近況を報告し終わると、メルヘンちゃんの恋愛相談になった。いつものパティーンだ。メルヘンちゃんいわく、『キスも経験せずにこのまま人生を終えるなんて嫌』なのだそうだ。どうやら最近、ステイホームが続き、韓国ドラマをみまくった影響で、少女漫画のような超展開恋愛に憧れているらしい。ならば、メルヘンちゃんは大富豪の運転する車に跳ね飛ばされて記憶を喪失する必要がありそうだ。なにそのクレイジーな展開、デュフフ。などとメルヘンちゃんとふたりで妄想話で盛り上がっていると、菩薩さんの「職場とかにきになるひととかいないの?」という質問により、秒で現実に引き戻された。メルヘンちゃんいわく「職場にはハゲ散らかしたオヤジばっかりで恋愛対象がいない」らしい。

でも待って。

私たち、いまアラフォーよ。いちねんが年々早く感じるお年頃。アラフィフだってすぐそこだわ。よもや、私たち自身がハゲ散らかす危険すらあるのよ。

それでも、メルヘンちゃんは恋がしたい。

これまで、メルヘンちゃんの恋が現実になるチャンスがなかったわけではない。しかし、恋が現実味を帯びると、彼女はそのチャンスを自らの手で叩き潰してきた、クラッシャーなのだ。以前、何度目かのデートで手をつなごうとしてきた男性の手を鬼の形相で振り払ったと語っていた。その男性が気の毒でならない。

メルヘンちゃんは、恋が現実になって男女の関係に発展することを想像するだけで、生々しさと嫌悪感を感じるのだそうだ。永遠のバージンロードではないか。メルヘンちゃんは「こじらせを通りこして、ひねっちゃった状態だからこれからも彼氏ができることはないかもしれない」と自分で自分を分析している。なんという的確な分析。有り余る愛は絶対に手の届かないアイドルに注ぎ、妄想で心を満たしているのだそうだ。

メルヘンちゃんは、今日も、恋に恋をしている。

連続放屁魔

2016年、

証券会社に勤めていた。ある日、彗星の如く上司が赴任してきた。名をジェフリーという。

余のチームは、各分野の精鋭が集められ専任チームとして新設された、肝入り部隊だった。ただ、これという仕事はなかった。そう、マドギワ部隊だった。そんな中、ジェフリーは、このマドギワ族を鍛え上げるために、家族を残し、はるばるカナダから単身、赴任してきたのだった。

ジェフリーは、中華系カナダ人だった。生まれはちうごく。数年前にカナダで永住権を取得したらしい。ジェフリーはちうごくでの人生については、酒の席でも決して語らなかった。察するに、ウンコを食べて飢えをしのぐぐらいドン引きな黒歴史があるのだろう。しかし彼の仕事ぶりは、まさに敏腕そのものだった。なぜこんなマドギワ部隊にやってきたのか、まったくもってワカラナイ。的確な指示、手厚いフォロー、柔らかな物腰、打たれても折れない強いココロ。「しなやか」というのはまさに彼のような人のことを言うんだろうな、と思った。

はじめて、あれ?と思ったのは、ジェフリーの隣で余が担当していた尊いプロジェクトの概要と進捗を説明しているときだった。

プッ・・・

微かな破裂音が聞こえたような気がした。直後、強烈な硫黄匂があたりを黄色に染めた。くっせぇ!!息ができなかった。

え、まさか今、おならした?え、まじで?このタイミングで?

いやまさか。

きっとお腹のコンディションが悪かったんだYO。

自分にそう言い聞かせた。そうだ、誰だって我慢がきかない、仕方のない時があるじゃないか。どうにもこうにもならないから、すかしっ屁のつもりがちょっと音が出ちゃった、きっとそうゆうことだ。だいじょうぶ、身は出てない。音だけだ。だからここは気づいてないフリを貫かなければならない。そう、それがオトナの流儀というものだ。

数日後、事件は起きた。会議室で、チームのメイトがホワイトボードに何かを描きながら熱心に説明していた時だ。私はふと、ジェフリーのほうを見た。ただ、ふと彼のほうを見たのだ。そのとき、私は目撃してしまった。彼が放屁するその瞬間を。

音はなかった。いや、聞こえなかっただけかもしれない。ただ、私にはわかった。その片尻を持ち上げる仕草、そして一瞬のうちに力の入れられた腹筋によってわずかにたわむワイシャツの動き。そう、それは見まごうことなき、すかしっ屁の奥義に違いなかった。

直後、小さな会議室に硫黄臭が充満した。

息を止めろ。

のちに、彼は、歩きながら雑音に紛れて放屁を繰り返す、連続放屁魔であることも明らかになった。

あまりにもナチュラルに放屁活動が行われるので、「人前でのおならは慎むべし」という日本の慎しきマナーそのものにさえ疑いを持ち始めた。もしかしたら、余の認識が間違っているのかもしれない。あるいは、彼がキャリアを築いた異国の地では、人前でのおならはがまんするべきものではなく、むしろ健康のために率先して放出する、という文化が根付いているのだろうか。お先にどうぞ、いえいえどうぞあなたから。そうですか、ではお先に ーーー プッ ーーー

なんと懐の深い国なのだろう。世界は広い。

リモートワークとうんち

余は

リモートワークである。一度も会社には出社しない強い意志の持ち主で、自宅で仕事をしている。

ともに暮らすポコ丸は自宅警備員だ。極度の潔癖症である。ポコ丸のトイレに対する執着心は異常だ。外出して自宅のトイレが遠のくと、とたんに不安にかられてしまう。もともと胃腸が弱いせいもあり、うんちの急襲が珍しくない。しかし潔癖症であるため、唯一安心できる清潔なトイレは自宅のそれだけなのである。

トイレは

常に清潔かつ無臭でなければならない。ポコ丸は、平均して1日に10回程度、かなり入念なトイレ掃除を行っている。ポコ丸にとって、トイレは聖域。絶対に汚されてはいけない場所なのだ。

そんな聖域が今、脅かされている。余がリモートワークだからだ。余という尊い存在がポコ丸の聖域に毎朝進攻し、その聖域にうんちをまきちらすという、蛮行が行われている。ゆゆしき事態の発生だ。

なんとかこの敵に対処しなければならない。ポコ丸は強い危機感をあらわにした。

まず、さまざまなトイレグッズが導入された。毎日のように、アマゾンから消臭剤をはじめ、除菌グッズが届く。今日も、巨大なポリタンクに入った業務用のメチルアルコールの消毒性能を試す運用試験が行われている。

新しいルールもできた。余は、トイレにはいる前に、トイレ占有の目的を高らかに宣言しなければならない。

うんちお願いします!

しかし時に、その宣言が否決されることもある。まさかの、シンクロ便意が起こってしまったときだ。そのような時は、お互いに、自分のうんちがどれだけ切迫した位置にあるのかをプレゼンしなければならない。プレゼンでの敗北が続くと、我慢している間にうんちが引っ込んでしまう。

時間制限も設けられた。トイレ占有時間が5分を超えると、持ち時間を使い切ったものとして、カウントが開始されるようになった。将棋や囲碁の対局であるような、「10秒、20秒、」といった秒数カウントがトイレのドアの向こう側から聞こえてくる。カウントが増えたとしてもこれといってペナルティはないのだが、これではゆっくりうんちする気にはならない。

会社に出勤していたころは、トイレは極上のリラックスタイムだった。スマホをいじりながら、ゆっくりうんちする時間を満喫していた。

どころが今はどうだ。まさに1分1秒を争いながら、うんちを効率的に排出しなければならない。戦場である。

リモートワークによって、余のうんち事情は一変してしまった。